最高裁判所第二小法廷 昭和54年(オ)580号 判決 1980年5月30日
上告人
中川健二
右訴訟代理人
松本健男
外五名
被上告人
日本電信電話公社
右代表者総裁
秋草篤二
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人松本健男、同在間秀和、同正木孝明の上告理由について
一原審が適法に確定した事実関係は、およそ次のとおりである。
(一) 上告人は、昭和四三年三月大阪府立の高等学校を卒業、一時学校の事務職員として就職したが、同四四年六月三〇日退職し、同年八月被上告人近畿電気通信局(以下「近畿電通局」という。)の社員公募に応じ、同年九月七日に一次試験(適性検査、一般教養筆記試験、作文)を受けてこれに合格し、同月二六日に二次試験(面接、健康診断)を受け、その際同時に、高等学校卒業証明書、同成績証明書、戸籍抄本及び健康診断書を提出し、同年一〇月上旬に身元調査があり、同年一一月一〇日ころに近畿電通局長名義の同月八日付の本件採用通知を受領した。
(二) 本件採用通知には、(1) 上告人を昭和四五年四月一日付で被上告人において採用すること、(2) 上告人を仮に大阪北地区管理部に配置し、別途、上告人の通勤が可能である管内の局所に正式に配置すること、(3) 採用職種は機械職とし、身分は見習社員とすること、(4) 入社前に再度健康診断を行い、異常があれば採用を取り消すことがあること、(5) 入社を辞退する場合は、速やかに被上告人所定の事務所に書面でその旨を連絡することなどが記載されており、併せて、その同封書類として、身元保証書用紙、誓約書用紙及び「貸与被服の号型調査について」と題する書面が被上告人から上告人に送達された。
(三) 上告人は、所定期限であつた昭和四四年一二月二〇日までに、被服号型報告表に所定事項を記載して近畿電通局長に送付した。また、昭和四五年元旦に、被上告人の大阪北地区管理部長から「来る四月からの上告人の入社を歓迎する」旨の年賀状を受領し、更に右管理部長から「懇談会の御案内と諸行事のお知らせ」と題する同年二月三日付書面を受領したので、それに従つて入社懇談会に出席し、約四〇〇名の出席者とともに、被上告人の事業内容について説明を受けたうえ、健康診断を受け、次いで同年三月中旬入社前教育の一環として、大阪府池田電報電話局を見学した。
(四) 被上告人に勤務する者は、役員、職員及び準職員に区分され、そのうち準職員は、更に見習社員、特別社員等に区分されるが、いずれも二か月以内の期間を定めて雇用する者であるところ、見習社員とは、職員に採用することを予定して雇用される者をいうものである。
(五) 被上告人の見習社員の採用については、「職員及び準職員採用規程」及び「準職員の雇用等に関する取扱について」と題する通達があり、それらによれば、募集、採用試験、身上調査、誓約書・身元保証書・戸籍の謄本又は抄本の提出、就業規則の指示説明等について規定がなされており、見習社員に採用することに決定した者に対しては、誓約書、身元保証書、戸籍の謄本又は抄本を提出させた後において、辞令書を交付するものとし、右各書類を所定期日までに提出しなかつた者については、その採用を取り消し得る旨が定められている。
(六) 上告人は、高等学校卒業後豊能地区反戦青年委員会に所属し、その指導的地位にあつた者であるが、昭和四四年一〇月三一日午後九時ころに大阪鉄道管理局前において開催された国鉄労働組合及び動力車労働組合の機関助士廃止反対に関する集会に右地区反戦青年委員会の一員として参加し、場所を移動すべく、約五〇名の集団を指揮して車道に入り、シュプレヒコールをしながら車道上をデモした際、その先頭に立つて笛を吹き、約五〇メートル移動した際に、待機中の警察機動隊によつて無届デモとして規制を受け、大阪市公安条例違反及び道路交通法違反の現行犯として逮捕され、右行為につき、同年一二月一一日に起訴猶予処分を受けた。
(七) 被上告人は(六)の事実を知らずに本件採用通知をしたのであるが、被上告人の職場の一部においては、昭和四四年秋ころから同四五年初にかけて、反戦青年委員会に所属ないし同調する被上告人の職員によつて、種々の激烈な闘争行為がなされ、そのため、職場の秩序が混乱し、業務の遂行も阻害されたことがあり、同年三月六日ころ被上告人において上告人が前記のとおり逮捕・記訴猶予処分を受けた事実を探知するに至つたため、近畿電通局長は上告人に対し、本件採用通知による採用を同月二〇日付で取り消す旨の本件採用取消通知をなし、それが翌二一日上告人に到達した。
二以上の事実関係によれば、被上告人から上告人に交付された本件採用通知には、採用の日、配置先、採用職種及び身分を具体的に明示しており、右採用通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかつたと解することができるから、上告人が被上告人からの社員公募に応募したのは、労働契約の申込みであり、これに対する被上告人からの右採用通知は、右申込みに対する承諾であつて、これにより、上告人と被上告人との間に、いわゆる採用内定の一態様として、労働契約の効力発生の始期を右採用通知に明示された昭和四五年四月一日とする労働契約が成立したと解するのが相当である。もつとも、前記の事実関係によれば、被上告人は上告人に対し辞令書を交付することを予定していたが、辞令書の交付はその段階で採用する手続ではなく、見習社員としての身分を付与したことを明確にするにとどまるものと解すべきである。そして、右労働契約において、上告人が再度の健康診断で異常があつた場合又は誓約書等を所定の期日までに提出しない場合には採用を取り消しうるものとしているが、被上告人による解約権の留保は右の場合に限られるものではなく、被上告人において採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取り消すことが解約確留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができる場合をも含むと解するのが相当であり、本件採用取消の通知は、右解約権に基づく解約申入れとみるべきである。したがつて、採用内定を取り消すについては、労働契約が効力を発生した後に適用されるべき日本電信電話公社法三一条、日本電信電話公社職員就業規則五五条、日本電信電話公社準職員就業規則五八条の規定が適用されるものでないことも明らかである。
ところで、前記の事実関係からすれば、被上告人において本件採用の取消をしたのは、上告人が反戦青年委員会に所属し、その指導的地位にある者の行動として、大阪市公案条例等違反の現行犯として逮捕され、起訴猶予処分を受げる程度の違法行為をしたことが判明したためであつて、被上告人において右のような違法行為を積極的に敢行した上告人を見習社員として雇用することは相当でなく、被上告人が上告人を見習社員としての適格性を欠くと判断し、本件採用の取消をしたことは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができるから、解約権の行使は有効と解すべきである。したがつて、原審が、上告人の採用試験への参加等が労働契約の申込みに、辞令書の交付が右契約の承諾にあたり、これに先立つてなされた本件採用通知は以後の手続を円滑に進展させるための事実上の通知にすぎず、労働契約的な関係を生ぜしめるものではないと判断したところは失当であるが、上告人の本訴請求は理由がないと判示しているから、原審の判断は、その結論において正当として是認することができる。論旨は、結局理由がなく原判決に所論の違法はない。所論違憲の主張は、ひつきよう、原審の事実認定を非難するものにすぎない。論旨は、いずれも採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(宮崎梧一 栗本一夫 木下忠良 塚本重頼 鹽野宜慶)
上告代理人松本健男、同在間秀和、同正木孝明の上告理由
原判決には、本件採用取消を有効とした点において、憲法一四条、同二一条の違反及び判決に影響を及ぼすことが明らかな民法一条、同九〇条、労働基準法三条、日本電信電話公社法三一条、公社職員就業規則五条、公社準職員就業規則五八条等の解釈、適用の誤りがあり、破棄せられねばならない。
一 原判決は、本件採用内定及びその取消について、次の如く認定した。
即ち、上告人と被上告人との間における本件見習社員雇用契約締結への折衝は、法律的には、被上告人のなした公募が契約の申込の誘引に該り、上告人の、これに対する応募とそれに引続く受験、卒業証明書等の書類の提出、入社懇談会への出席、健康診断の受診等の諸行為が、引続く一連の行為として、一括して、契約の申込に該り、昭和四五年四月一日になさるべきであつた被上告人の上告人に対する辞令書の交付が、契約の承諾に該当するものであり、本件採用通知は、被上告人が内部的に決定した事実を便宜上、上告人に告知したものにすぎず、法律的には観念の通知であり、何ら法的効果を生ぜしめるものではない。ただ右採用通知により、上告人が事実上の期待を抱くから、その採用取消にあたつては、相当な特別の事情を必要とする。そして本件採用取消については、被上告人がその裁量権の範囲を逸脱したものではなく、取消権の濫用によるものではないから、右採用取消は有効である、とするのである。
しかしながら、右認定は、上告人と被上告人との間における見習社員雇用契約締結について、上告人への被上告人の辞令書の交付によりはじめて契約が成立する、とし、本件採用通知を単なる観念の通知とした点に於て、明らかに、本件各当事者の意思の客観的・合理的解釈を誤つたものである。そして、本件採用取消事由の判断において、上告人への立場を単なる事実上の期待を抱いたものという法解釈を前提にして、本件採用取消を有効としたのは、右の本件各当事者の意思解釈を誤った結果、前記各法令の適用を誤つたものである。即ち、本件において、採用取消段階に於ては、既に上告人と被上告人との間で見習社員契約が成立しており、従つて本件採用取消は免職に他ならず、日本電信電話公社法三一条、公社職員就業規則五五条、公社準職員就業規則五八条の適用を受けるものであり、右各規定に従つて本件採用取消の効力を判断すれば、その要件に該当しないか、あるいは、解雇権を濫用したもので無効とされるべきものである。更に、本件採用取消事由を見ると、上告人が反戦青年委員会に所属していた事実、あるいは、企業外の上告人の政治活動がその実質的理由とされており、右採用取消が、上告人の政治的思想・信条を理由とされているから、憲法一四条、二一条、民法一条、九〇条、労働基準法三条により無効であるにもかかわらず、これを看過した原判決には、前記憲法、各法令の解釈・適用を誤つたものであることは明らかである。
以下、本件採用内定の法的性格、採用内定取消の無効の点につき要約して述べる。
二 本件採用内定の法的性格について
(一) 本件採用内定取消に至るまでの事実経過について
まず、被上告人(以下公社という)における職員採用に関する一般的手続は次の如く定められている。
公社の職員及び準職員採用規程(乙第一号証)によれば、準職員は採用試験により雇用するとされ(三条)、準職員の雇用についての募集は原則として公募により広く人材を求める方法をとるものとされ(四条)、就職希望者には、就職希望者調書または自筆の履歴書、最終学校の成績証明書および卒業証明書などを提出させなければならず(五条)、採用試験は受験者が有する職務遂行の能力を相対的に判定することを目的とし、その方法は筆記試験、面接試験および健康診断とするものとされ(六条)、採用試験は就かしめようとする職務についてもつとも適したものが選択されるように計画され、実施されなければならないとされ(七条)、準職員を雇用しようとするときはその者の身上を調査しなければならないとされ、(一〇条)、準職員に雇用することが決定した者には誓約書、身元保証書、戸籍謄本、その他必要書類を提出させなければならないとされているのである(一一条)。
要約すれば準職員の採用は公募のうえ必要書類を提出させて採用試験によつて決定され、雇用を決定したものについて誓約書、身元保証書、戸籍謄本等を提出させることとされているのである。また準職員の雇用等に関する取扱について(乙第二号証)によれば、準職員に雇用することが決定した者に対しては就業規則その他必要と認める公社の諸規定を提示し、これを説明のうえ、誓約書、身元保証書、戸籍謄本または抄本、承諾書、その他必要な書類を提出させ辞令書を交付することとされている。右の手続に従つて、本件では以下の事実経過があつた。昭和四四年八月、上告人は、公社の社員公募に応募し、同年九月七日第一次採用試験を受験し、翌八日これに合格し、同月二六日第二次試験を受験し、その際、出身高校である府立箕面高校の卒業証明書、同成績証明書、戸籍抄本、健康診断書を提出し、同年一〇月上旬身元調査があり同年一一月八日付の採用通知を同月一〇日頃公社より受領した。右採用通知には、上告人を昭和四五年四月一日付で採用すること、大阪北地区管理部に仮に配置し、別途管内の通勤可能な局所に正式に配置すること、採用職種は機械職、身分は見習社員とすること、及び入社前に再度健康診断を行い異常があれば採用を取消す場合がある旨記載されていた。また右通知には「貸与被服の号型調査について」なる書面が同封されており、上告人は、右書面記載の指示に従い、昭和四四年一二月二〇日までに被服号型報告表に所定事項を記入して近畿電気局長に送付した。更に、翌四五年一月一日、公社大阪北地区管理部長より四月からの入社の歓迎を内容とする年賀状が届き、さらに同年二月三日付で同部長より入社懇談会の案内、健康診断の実施、職場見学の案内等を記載した「新しく入社されるみなさんへ」と題する書面が上告人に送付され、上告人は、同年三月四日入社懇談会に出席し、公社の事業内容の説明等を受け、同日午後、近畿電通局に於て健康診断を受診した。そして同月中旬頃、池田電報電話局に於て職場見学に参加した。
ところが、同月二一日、同月二〇日付の近畿電通局長よりの本件採用内容取消通知をうけた。
(二) 右の事実経過の法的評価について
1 右の経過のうち、公社の社員公募が、契約申込の誘引であり、上告人の採用試験の受験が契約申込にあたるという前提で考察した場合、問題は、本件採用通知(甲第四号証)の法的評価についてである。
右採用通知には、上告人を「昭和四五年四月一日付をもつて下記条件で採用することになりました」旨明記され、「入社前に再度健康診断を行い、異常があれば採用を取消す場合がある」、「もし入社を辞退されるような場合は、すみやかに……書面でご連絡願います」旨等の記載がある。
これらの記載によれば、右通知は、明らかに公社が上告人を公社見習社員として採用することを決定した旨の意思表示である。ただ現実に就労する時間が翌年の四月一日であり、公社側からは、再度の健康診断の結果異常があれば採用を取消すことがあること、上告人の側からは、入社の辞退をする場合は、すみやかに連絡することが条件として付されているにすぎない。そして上告人は、右通知に同封されていた被服号型調査表に記入の上、返送しているのであるから、右送付により、上告人の側からは入社の辞退をしない旨の意思表示をなしたと解されるのである。
従つて、右採用通知の上告人への送付は右通知の文言上の解釈からも上告人からの契約申込に対する公社の承諾の意思表示と解すべきものであり、上告人と公社との間の見習社員雇用契約は、上告人が入社を辞退しない旨の意思を明確にした被服号型報告表の返送の事実により確定的に成立したと解すべきものである。
2 右の法的解釈はその後の一連の事実経過からも十分窺える。即ち、公社の事業を説明した職場懇談会や、職場見学等は、上告人と公社との間の見習社員契約を前提とした現実の就労のための準備的行為と解せざるをえないものである。
これら採用決定後の一連の事実は法的に全く無意味なものではなく、上告人側でこれらに応じなければ、一定の法的効果がある程度予想されるものである。若しこれらの一連の事実を、上告人と公社間の契約から導かれる拘束と解さないとすれば、換言すれば、辞令書の交付により始めて契約が成立する、との原判決の如き立場からすれば、上告人の側が負う、懇談会、職場見学等への参加義務、誓約書、身元保証書等の提出の義務等が、各別個の契約で発生すると考えるか、あるいは、その都度の合意によつて発生すると考えざるをえなく、あまりにも擬制的にすぎる結果となるのである(菊谷達彌「内定取消・自宅待機と内定者の期待的地位」季刊労働法九六号二六頁参照)。
3 更に、採用通知(採用内定通知)の前記解釈は、右通知の受領により、上告人側がおかれる立場、のみならず、一般的に右の如き決定通知により労働者側が受ける拘束の実態等からしても十分に根拠付けられるところである。即ち、本件においても、上告人は、前職場である大阪府立茨木工業高校の事務職員を辞した後、公社を受験し、本件採用通知を受領した後は、他の職場への就職は全く考えず、公社における就労に備えて準備に勤しんでいるのである。一般的にも、とりわけ、高校、大学の卒業見込者の新規採用にあたつては、当該在籍の学校から推せん等がなされるが、ひとつの企業の採用が決定した場合は、当該学校から他企業への推薦はなされず、該労働者も、他企業への就職はなしえない状況になつている。従つて、採用決定後は、当該労働者は、該企業の従業員として採用されたとの意識を当然に有するのであり、また企業においてもそれを期待しているのである。これら一般的な社会状況からしても、採用決定(内定)により、就労の始期を後日とした雇用契約が成立すると解するのは当然の合理的な意思解釈である。
これに対して、原判決が、本件採用通知を単なる「観念の通知」とし、その後の上告人の地位を単に事実上の期待を抱くだけの地位と解したのは、右の上告人及び公社の当時の意思内容に明らかに反するだけでなく、本件と同様に行われている採用手続から一般に解釈されている社会通念にも背理するものである。原判決は右の解釈にあたり「本件採用通知の文言、前記年賀状の内容、誓約書と身元保証書の未提出、前記『社員募集案内』表示の勤務条件の概活的な記載等により、控訴人においても、その当時、充分理解し得べきところであつた」旨述べるが、これは、まさに曲解という他なく、逆に、採用通知の文言、年賀状の記載内容、懇談会の案内状等からして、当時客観的にも上告人は、公社職員として採用されたとしか理解できない状況にあつたのである。
尚、右の誓約書、身元保証書については、確かに本件採用通知において懇談会の際に持参するよう記載されているものの、三カ月後の右懇談会の案内状(昭和四五年二月三日付)には右のことは何ら触れられておらず、事実、右懇談会の際に、誓約書等を持参した者はほとんどなく、上告人もその際には何の指示もうけていない。従つて、誓約書、身元保証書の未提出という事実が、原判決の言う右意思解釈の根拠となり得るものでは全くない。前述の公社の職員及び準職員採用規定(乙第一号証)の一一条においては、「準職員に雇用することが決定した者には誓約書、身元保証書、戸籍謄本、その他必要書類を提出させなければならない」とされているのであり、採用が決定された者の義務として規定されており、原判決の右解釈は、右規定にも反しているのである。
4 次に右の採用内定についての法的解釈について、現実の就労を伴わない労働契約である点、あるいは就業規則の明示等の問題点について述べる。労働契約は確かに就労を中心とする契約であることは事実であるが、現実の労務の提供がなければ契約自体成立しないというものではない。例えば、休職中の労働者、在籍組合専従者等は、使用者との間に労働契約関係を有しながら労働力の提供は免れている。従つて採用内定段階に労働力の提供と賃金の支払が存しないことをもつて労働契約の不成立を根拠付けることは必ずしもできないのである。
また就業規則の明示の点であるが、その明示がなければ、労働契約が成立しないというものではない。確かに、具体的にその明示があるのは、辞令書交付等の際に、各採用者に就業規則が配布されるか示されるかすることになるのであろうが、しかし、就業規則に明示される基本的な労働条件については、既に公社の社員公募の際の募集要綱と採用通知に明示されているのであり、労働契約が締結されるための要素の重要な部分は、採用通知段階で既に明らかにされ、上告人もその条件を承諾の上で採用に応じているのである。
従つて、右の点からしても、本件労働契約の成立を肯定しうるのである。
(三) 採用内定の法的評価に関する学説・判例について
1 採用内定問題に関して、従来多くの学説があらわれたが、現在では、若干の相異はあるものの、ほとんど一致して労働契約成立説をとつている(菊谷前掲書二二頁以下、ジュリスト四九九号「産業構造と労働法」八九頁以下等)。
学説においては、当初、労働契約締結過程説が有泉教授により提唱され、(有泉享「労働基準法」九四頁以下)、その後に後藤教授が労働契約予約説(後藤「採用内定予定者の法的地位」季刊労働法五三号一二九頁以下)、を提唱されたが、その後労働契約成立説が有力に展開されるに至り、右両教授とも説を改められ、現在では、右契約成立を前提にいかなる内容の契約が成立するかが論議されている状況である(有泉「労働契約」二四頁以下及び後藤「採用内定についての再論」季刊労働法八三号五一頁)。
本件原判決は、その論旨から右の「労働契約締結過程説」を採つたことは明らかであり、右論の不合理性については前述してきたとおりであるが、学説の上でも、既に過去の論である。菊谷、前掲書二二頁においても次の如く述べられている。
「現在までの多様な学説を、ともかく大別するとすれば、一応、予約説と労働契約成立説に分けることができる。そのいずれにも組み込めないものとして、有泉教授の労働契約締結過程説があるが、すでにこの説は、論者が後に修正されているので、現在では特に学説の一つとして列挙する必要はあるまい。昭和三八年に唱えられたこの説は一つの社会学的説明にすぎなかつたが、採用内定の論議の引金になつたことは貴重であり、同時に、「将来順調に卒業することを条件として労働契約を締結したものとみるか、卒業の上あらためて労働契約を締結すべきことを予約したものとみるかは、それぞれの事情によつて判断するほかない。」として、予約説、労働契約成立説の出現のための土壌が用意されているところにも注目しなくてはなるまい。引きつづき、翌昭和三九年には、「在学中に入社を決定し、卒業後職場に入る場合は、多くは労働契約の予約である……」とする予約説があらわれている。同じ年、実態分析をふまえながら、採用内定を婚姻予約に関する近時の有力な異説としての婚約無効論と対比させつつ、その相違性を検討し、労働契約に予約の存在がみとめられてしかるべきことを主張する後藤教授の詳細な予約説が登場した。この説は、内定取消の場合の法的効果については当時の有泉説とほとんど差はない。これに対し、昭和四〇年、四一年に、多くの企業で行われている試用契約との統一的把握の必要性に着目し、労働契約において内定を予約と解する実益性の乏しさと、予約と解することにより試用あるいは本契約との間の権利関係を不必要に複雑にするので、内定をもつて契約の成立とし、卒業できないことが解約原因となり、労働の履行は卒業後の一定期日よりなされるものと考えるべきであるとする宮島教授の労働契約成立説が、反論としてあらわれた。解約権留保付期限的労働契約説としておこう。つづいて、昭和四四年に、本多教授の卒業等を停止条件とする労働契約成立説、外尾教授の、卒業後の所定の目から効力を発生せしめるとする期限付労働契約成立説が唱えられた。後説は、多くの場合に解除条件がつけられることが多いとして、原則的には、解除条件付始期的労働契約になるとする。ここで、ほぼ、予約説と労働契約成立説の対立が形造られたといつてよい。その前後も、予約説をとる主張はあらわれるが、急速に、労働契約成立説の方へ主張が移つていき、現在では、労働契約成立説が中心となつているといつてよい。前記有泉説も停止条件付労働契約説へ、後藤説も、予約成立の可能性を残しつつ、解約権留保付始期付労働契約の成立を認むべき社会的、経済的背景が生じてきたとして修正を認められた。それより以前、浅井教授は、予約説に対する疑問として解約権留保付始期付労働契約説を唱えられている。」
右のとおり、原判決の論は、現在では学説においても過去の歴史的遺物であり、本件においても採りえないことは明らかである。
2 次に判例をみると、過去いくつかの採用内定取消の無効を求めて、事案に対する下級審の判例が存する。
(1) 森尾電機事件第一審判決(東地判昭和四五年一一月三〇日、判例時報六一三号二五頁)
(2) 同事件第二審判決(東高判同四七年三月三一日、同六六二号三〇頁)
(3) 大日本印刷事件第一審判決(大津地判同四七年三月二九日同六六四号一八頁)
(4) 同事件第二審判決(大阪高判同五一年一〇月四日、同八三一号一五頁)
(5) 日立製作所事件(横浜地判同四九年六月一九日、労働判例二〇六号四六頁)
(6) 東京都建設局事件(東地判同四九年一〇月三〇日二一四号三九頁)
(7) 電々近畿(藤村)事件(同四九年一一月一日、同二一三号四八頁)
(8) 五洋建設事件(広島地呉支部同四九年一一月一一日同二一六号六四頁)
右の各判例の内(3)の判例を除き、すべて、現実の就労開始以前に労働契約の成立を肯定し、内定取消は解雇に他ならないとの判断の下に取消の当否を論じている。右(3)の判旨は、結論的には、取消を無効としたが、採用内定の法解釈として「いわば採用内定契約ともいうべき一種の無名契約」が成立したとの判断を示しているが、右の判断の部分は、(4)の同事件接訴審判決でくつがえされ、次の如く、明確に述べ、結論的に一審判決を正当としている。即ち、
「以上に摘示・認定した事実に、終身雇用制度の下におけるわが国の労働契約とくに大学新卒業者と大企業とのそれにみられる公知の強い附合(附従)契約性を合わせ考えれば、前記経過の下に前記形態で採用内定が行われた本件においては、控訴人会社からの募集(申込の誘引)に対し、被控訴人が応募したのが労働契約の申込みであり、これに対する控訴人会社よりの採用内定の通知は右申込に対する承諾であつて、これにより(もつとも、右承諾は、通知書に同封して来た誓約書を提定期日までに控訴人会社に送ることを停止条件としていたものとみるのが相当であるが、被控訴人は右誓約書を指定どおりに送付したので、これにより)控訴人と被控訴人との間に、前記誓約書における五項目の採用内定取消理由に基く解約権を控訴人会社が就労開始時まで留保し、就労の始期を被控訴人の昭和四四年大学卒業直後とする労働契約が成立したと解するのが相当である。」
右の論旨はまさに本件にあてはまるものである。右判示には、通知書に同封して来た誓約書を指定期日までに送ることを停止条件としており右誓約書を指定どおりに送付したことにより契約が確定した旨述べているが、この点は、本件に於ては、被服号型調査表の送付が右にあたるものと解せられ、十分に参考に値するものである。
(四) 以上述べてきたとおり、学説、判例上からも、本件採用内定についての法的評価としては、就労の始期を昭和四五年四月一日とし再度の健康診断の異常を解除条件とした労働契約が、公社からの採用決定通知の送付と、上告人からの被服号型調査表の公社への送付により確定的に成立したものというべきであり、この点における原判決の誤りは明白である。
三 本件採用内定取消事由について、
(一) 前述した採用内定(決定)の法的性質を前提にすれば、本件採用内定取消は、まさに解雇(免職)に他ならないものであり日本電信電話公社法三一条、公社職員就業規則五五条、公社準職員就業規則五八条等が適用されるべきであるに拘らず、これらの適用がないとした原判決は、明らかに、法令の適用を誤つたものであり判決に影響を及ぼすこと明らかである。
また、前述した採用内定の法的評価にあたり、仮に労働契約が成立していないとの解釈をとるにしても、内定者のおかれる客観的状況、各当事者の意思解釈からして、その取消は、右の解雇(免職)と同様に評価さるべきであり、右の解雇制限に準じた制限に服すべきである。いずれにしても、内定者である上告人の期待的地位を薄弱な根拠で奪うことは許されるべきではなく、また解雇以上の幅広い裁量により採用内定が取消されることは社会通念上も認められないものである。
(二)(1) 原判決は、本件採用内定を取消すに至つた経緯について、上告人が豊能地区反戦に所属し、その指導的地位にあつたことと、昭和四四年一〇月三一日に、大阪鉄道管理局前で公安条例違反で逮捕され、その後起訴猶予処分となつたこと、昭和四四年秋頃から公社内に於て反戦委に所属、同調する公社従業員によつて闘争行為があり、職務の秩序が混乱したこと等の事実認定をし、その上で「右認定の事実関係からすれば、被控訴人において本件採用内定の取消をしたのは、控訴人が反戦委に所属し、その指導的地位にある者の行動として、公安条例違反の現行犯として逮捕され、起訴猶予処分を受ける程度の違法行為をしたことが決定的な原因」であるとし、被上告人が、上告人が公社の見習社員としての適格性を欠くと判断したことは誤りがなく、その判断も社会通念上その裁量権の範囲を逸脱したものとは到底言えない旨判示している。しかし、右判旨は、以下述べる如く、公社職員の適格性の有無の判断、裁量権の範囲の判断等において明確に誤つている。
2 まず、原判決にいうところの「適格性」とは日本電信電話公社法第三一条第三項にいう「その他職務に必要な適格性」と同義であると考えられるが右同条と同趣旨の規定である地方公務員法二八条一項二号について、最高裁判所は次のように述べている。
「これを同法二八条一項三号所定の処分事由についてみるに、同号にいう『その職に必要な適格性を欠く場合』とは当該職員の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質・能力・性格等に基因してその職務の円滑な遂行に支障があり、または支障を生ずる高度の蓋然性が認められる場合をいうものと解されるが、この意味における適格性の有無は当該職員の外部にあらわれた行動・態度に徴してこれを判断するほかない。その場合、個々の行為、態度につき、その性質、態度、背景、状況等の諸般の事情に照らして評価すべきことは勿論、それら一連の行動・態度については相互に有機的に関連づけてこれを評価すべく、さらに当該職員の経歴や性格、社会環境等の一般的要素をも考慮する必要があり、これら諸般の要素を総合的に検討したうえ、当該職に要求される一般的な適格性の要件との関連においてこれを判断しなければならないのである。」(最高裁昭和四八年九月一四日判決・民集第二七巻八号九二五頁)
右判示から明らかなように、適格性を欠く場合とは、当該職に要求される能力・素質等の欠缺のため業務の適正かつ円滑な運営に支障があり、または支障の生ずる蓋然性が認められる場合をいうのであり、当該労働者が業務の運営上支障となる矯正し難い属性を有していると認められる場合を言うのである。そして、当該労働者が右の如き属性を有しているか否かはその労働者の具体的な行動から判断するほかないが、しかしながら右判断の対象はあくまでも当該職に要求される一般的能力・素質等の欠缺の有無であり、企業秩序維持の観点からする道義的非難であつてはならないのである。この点を敷衍すると、分限事由としての適格性の欠缺は、前述したように職務の遂行に支障をきたすような属性を有する労働者を排除しようとするものであり、一定の行為を問題とする場合にも、右行為の背景となつた当該労働者の能力・素質等が矯正可能か否か、またそのため業務の能率的な遂行に支障をきたすか否かという観点から問題とされ、道義的非難を伴うものではないのに対し、懲戒免職の場合は、企業の秩序維持の観点から一定の非違行為について道義的非難を加えるものであり免職の判断の際には、当該労働者の能力・素質等を問題とせず、企業秩序が乱されたか否かが問題とされるのである。
原判決は、公社が「重要な公共的業務を担当し」、「その従業員は法令及び諸規則を遵守して、誠実な労務の提供をなすべきものであり」、「一般民間企業以上に業務秩序の厳正が要求される」として、上告人の適格性を欠くとの判断を相当としたのは、明らかに前記最高裁の判旨を理解していないと判断せざるをえない。
即ち、上告人が、反戦青年委員会に属していたのは、自らの政治的思想・信条に基くものであり、純然たる私生活の領域の問題として、公社の職員としての職務遂行の適格性の評価とは無関係のことがらである。また、大鉄局前で逮捕された事実についても、上告人の政治的信条から、公社の職務とは全く無関係な場で、また全く関連のない問題についての集会に参加した際に発生した事案であり、しかも非違行為といえども、単なる取締規則の違反に止まるものでその程度も極めて軽微なものである。従つて、いかに公社職員に一般企業以上の厳正さが要求されるとしても上告人が管理的色彩の全くない末端の機械的労働に従事することを予定されていた者であることも考慮すれば、公社職員としての労働力の評価とは無関係な、全くの私生活の領域における行為をもつて、適格性なしとすることは明らかに不当である。
3 さらに、原判決は右の上告人側の事由に加えて、当時公社内において反戦系労働者が職場の秩序を乱したという事情を加え判断している。しかしながら、上告人が、反戦委に所属し、街頭で逮捕された事実と、右公社内における職場の混乱との関連は何ら判示されていない。現実に、上告人と及びその所属していた反戦委と、右公社内の反戦グループとは全く無関係であり、単に「反戦青年委員会」という名称が共通していたにすぎないのである。
右のみならず、重要なのは、上告人と公社内の反戦グループが何らつながりがないという事実について公社が熟知していた点である。
即ち、被上告人は意識的に、箕面電報電話局の庶務課の職員等を通じて豊能地区反戦青年委員会の動静を調査していたが(現に当時庶務課長であつた小野木笑子は原審において、地域の職員からいろいろな情報を得、更に自らも豊能地区反戦の集会に見に行つたりした旨述べている)、その中で豊能地区反戦の結成過程は勿論のこと、(乙第六号証)、分裂のことも十分に知つていたのである。即ち、豊能地区反戦が分裂した昭和四四年九月頃近畿電気電信局職員部の労務課長であつた柏木英夫は次のように述べている。
「革共同中核派に属する意見を持つている幹部とそれからいわゆる社青同左派と言われておるグループに属する意見を持つ幹部とがおつて、若干のニュアンスの違いはあるやに聞いております。」(乙第三六号証一九丁)
このように被上告人は豊能反戦の中に二つの傾向があることを知つていたのであるが、一方で、①被上告人が入手している豊能反戦ニュースが昭和四四年九月頃より発行されたこと②その内容は、革共同中核派が主張していることとほぼ同じであつたこと、(ヘルメットの色やその主張する行動形態から判断して――乙第三六号証二四丁)③豊能反戦ニュースNo.二八(乙第二四号証)では、全大阪反戦内部での社青同や革マル等、総評の「尻うまにのこのこついていく部分」を批判し、彼らと明確に訣別して闘つていく旨主張していること、④豊能反戦の中の社青同左派とは、社青同協会派のことだと思つていたこと(乙第三六号証二〇丁)を総合すると、被上告人は豊能地区反戦が事実上分裂し、その各々が別行動をとるようになつたことを知つていたものと考えざるをえないのである。
一方、被上告人は、中電マツセンストを主張したグループの動静については詳しく調査していたものと思われるが(乙第三六証参照)、ビラ等からするならば、中電マツセンストを主張したグループは電信反戦青年委員会の極く少数であり、かつ街頭において火炎びんを投げる等のいわゆる武装路線を主張しているグループとつながりがあることは容易に知りえたはずであり(甲第二三号証)、したがつて上告人が中電マツセンストを主張するグループと全く主張が異なり、つながりもないことは被上告人において既に知つていたことは明らかなのである。
以上の事実を総合するならば、被上告人が公社の職員になつたとしても、被上告人主張の如き秩序びん乱行為をなすおそれが存しないにもかかわらず、更にかかる危険性の存しないことを十分知りながら、上告人が「反戦青年委員会」と名がつく団体に加盟していることの一事をもつて本件採用内定を取消したというべきであり、まさに上告人の思想を理由にして本件取消を行なつたものである。
4 原判決が肯定した、被上告人が上告人の採用内定取消を正当にする根拠はつまるところ次のことに尽きる。即ち、①上告人は反戦委に所属し、街頭で違法行為を敢行した→②当時公社内では反戦グループが業務の秩序を乱す行為をしていた=③よつて、上告人が公社で就労すれば公社の業務が乱されるというのである。右の各事実を繋ぐものは、ただ「反戦青年委員会」という名称のみである。被上告人も、右の「理論」だけでは、正当化しきれないのを見て、右に加えて、当時の公社の調査能力からすれば、「反戦青年委員会」の「過激の程度」は不明で、「反戦青年委員会」と名が付けば全て過激と判断せざるをえなかつた旨強弁している。そして、上告人が「過激派」の一員であると認定したのは「豊能反戦ニュース」の記載内容が根拠というのである。しかしながら、当時の公社の「反戦派」に対する調査能力は前述のとおり相当高度なものであり、また調査範囲も相当広範囲に及んでいたのである(原審における小野木証人の証言)。従つて、被上告人の言う右論拠は誰弁に等しいことは明らかである。
更に加えて、上告人が、右「豊能反戦ニュース」とは全く無関係な立場におり、それとは全く異なる方針を指示していたことは、原審に於て、提出された「豊能反戦通信」(甲一六〜二〇号証)により明白であり、それらによると、上告人らは、右「ニュース」のグループの如き「過激」な方針を批判する立場をとつていたことが明瞭に見てとれるのである。原判決は、この点を全く看過しているが、公社が上告人の内定を取消した唯一の具体的根拠に「豊能反戦ニュース」の記載内容を掲げているだけに、右の点に全く触れない原判決は明らかに理由不備の謗りを免れないものである。
(三) 原判決は、ほとんど理由を示すことなく、ただ、「控訴人が反戦委に所属し、その指導的地位にある者の行動として、公安条例違反の現行犯として逮捕され、起訴猶予処分をうける程度の違法行為をした」事実により、上告人が被上告人の見習社員としての適格性を欠く、と結論づけている。
上告人が反戦委のメンバーとして、極めて軽微な取締法規違反により、公社の職員と全く無関係な場面で逮捕され起訴猶予となつた事実が、何故、電々公社という巨大企業の末端の機械的労働に従事する者としての社員の適格性に影響を及ぼすのか、未だその根拠は示されないままである。原判決は、右の点本件のいわば核心の点において、合理的で具体的な理由はなんら示していない。
(四) 結局、以上の諸点からすれば、外告人が、「反戦青年委員会」に所属しているという一事のみが、本件採用内定取消の唯一の原因と考えざるをえないのである。従つて、本件採用内定取消は明らかに、上告人の思想・信条を理由にした差別的取扱であり、また、結社の自由を阻害するものであり、憲法一四条、同二一条、労働基準法三条に違反し、民法一条、同九〇条により無効とさるべきものである。この点を看過した原判決には右各法令の解釈、適用を誤つた違法があり、破棄を免れないものである。